複雑な社会を生き抜く力を育むために:YIS におけるコンパッショネート・システムズ 

初等部校長

デイブ・シーコム

世界各地で社会の不確実性がますます高まる中、それに応じて教育のあり方も変化しています。各地の教室や学校で教育に携わる教育者たちは、様々な事象が複雑に絡み合い、相互依存が高まり、急速に変化する社会に若者たちを送り出すには、どのような準備が必要なのか、改めて考え直しています。気候変動、公平性、アイデンティティ、そしてウェルビーイングといった課題は、もはや二次的な問題ではありません。生徒たちが日々直面している現実そのものなのです。

このような現実の中には、大きな課題と、可能性への静かな希望があります。まず、学習科学や青少年育成に関する研究では、ある種の緊張が高まりつつあることが示唆されています。それは、地球規模の問題に関する若者の意識が高まるにつれ、不安感や孤立感、主体性の低下を経験する若者の数が増えているという事実です。もはや、認知的な理解力を高めるだけでは十分ではないのです。社会の複雑さを理解し、その中で自ら行動することを選ぶために、生徒たちは、自分自身の感情を理解し、相手の視点に立って考え、人と人との関係性について理解する力、そして明確な目的意識を持つ必要があります。こうした力を育むには、生徒たちの学習体験を組み立てる際に、細やかな配慮をしなければなりません。単にどのような学習内容を提供するかだけでなく、生徒たちがどのように学びと出会い、学んだことを噛み砕いて理解し、そしてそれを自らのものとして実践していくのか、という点についても、同様の配慮が求められます。

一方で、現在、教育者たちの間で、「人と人との関係に基づく」「修復可能で」「人間を中心とした」取り組みとして、「教育」を捉え直す動きが広がりつつありますが、これは大変心強いことだと感じています。この動きの核にあるのが、「コンパッショネート・システムズ・アプローチ(Compassionate Systems Approach)」です。このアプローチの本質は、特定のツールの使い方を教えることよりも、物事の見方や自分自身の在り方、そして人と関わる力を育むことに重きを置いている、という点にあります。このアプローチが前提としているのは、人類が直面する最大の課題の根底には、人との人との関係性が深く関わっているという考え方です。こうした課題に効果的に向き合うには、以下の相互に関連し合う3つの領域における力を育む必要があります。

  • 自己の内面に対する意識:学習者は、自分自身の思い込み、感情、思考パターンに気づくことで、一旦立ち止まって考え、意図的に対応する能力を身に着けます。
  • 人と人との関係性に対する意識:学習者は、対話と協働的な探究を通して、同じ状況でも人によって体験の仕方が異なるのだということを学びます。違いがあっても相手に対して好奇心を持ち続けることができれば、そこから他者を思いやる気持ちが生まれます。
  • システムに対する意識:学習者は、表面的な事象の背景にあるパターン、構造、メンタルモデルを探究することで、自らを外部の観察者としてではなく、生きたシステムにおける主体的な参加者として捉えます。

 

このアプローチでは、ウェルビーイング、人間関係、システム思考を、それぞれ個別の取り組みとして考えるのではなく、ひとつの学びのプロセスにおいて相互に関連しあう要素として捉えます。このアプローチは、世界各地の学校や教育システムにおける授業や学習環境の革新にとどまらず、ガバナンス、ヘルスケア、その他の多様な組織の現場でも活用されており、より創発的で生成的な文化の形成に向けた、集合的なリーダーシップを支えています。

YIS は、ここ数年にわたり、このアプローチに取り組んできており、現在もあらゆる分野において様々な方法で取り入れています。2026年11月には、マサチューセッツ工科大学の Centre of Systems Awareness からメッテ・ボル博士とそのチームを再びお招きし、ワークショップを開催いたします。このワークショップは、このアプローチを支えるために開発されたツールや手法について、実践を通して学ぶ入門的な内容となります。この研修では、生きたシステムの変容、組織学習およびシステム・ダイナミクス、瞑想の伝統、神経科学および社会情動的学習といった幅広い分野において、数十年にわたって開発されてきた様々な学習ツールや実践を取り入れます。

今回のワークショップの目的は、それぞれの環境で教育に携わる人々や、その中にある仕組みを踏まえながら、コンパッショネート・システムを実現するための変革を進めるリーダーたちを支援することです。この枠組みは、YIS の教育理念とインパクト戦略とも直接結びついており、グローバル・シチズンシップ(地球市民としての意識)、インクルージョン(誰もが参加できる環境づくり)、ウェルビーイング(心身の健康)への理解や意識をさらに深めることで、既存の取り組みをさらに充実させることができます。これらは、私たちのコミュニティが、その理想に近づくために、継続的に取り組んでいる分野です。

大変ありがたいことに、前回のワークショップには、YISの保護者の方のご参加も得ることができました。今回のワークショップにも、是非多くの方々にご参加いただければ幸いです。参加をご希望の方は、Center for Systems Awareness のウェブサイトをご覧ください。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

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